町家をリノベーションした日本初の宿場町ホテル
「街に泊まって、食べて、飲んで、買って」をコンセプトにする、新しい「メディア型ホテル」が大津の街に誕生しました。雑誌のページをめくるかわりに街を歩く、紹介文を読むかわりにお店の人と話してみる。さらに自分で見つける街のあれこれ……。雑誌やテレビ、インターネットでは得られない「リアルな体験」をテーマにした宿、それが「宿場町 HOTEL 講 大津百町」です。
大津と聞いても琵琶湖以外にあまり思い浮かばないかもしれませんが、実は隠れコンテンツがたくさんあります。国宝所蔵数では日本有数の三井寺や、源氏物語の舞台とされる石山寺、あの比叡山延暦寺も大津が表玄関です。さらに中世の風情が残る坂本の街並み、国指定無形民族文化財の「大津祭」など歴史的資源を挙げればキリがありません。さらに京都からJRで2駅9分、京阪だと京都市営地下鉄東西線と直通という利便性も知られていません。
とはいえ「大津」です。「47都道府県でいちばん寂しい県庁所在地」と言われるほど地味な街。京都から近すぎることも災いして、中心市街地の商店街では「シャッター化」が進んでいます。
でもこの商店街には素晴らしいコンテンツがあるのです。江戸時代から続く鮒鮓の名店や漬物屋さん、めちゃくちゃ美味しい鯖寿司の店、そして商店街の魚屋さんでは、京都の料亭で珍重される琵琶湖産の貴重な淡水魚がごく普通に売られていたりします。
これは泊まっていただかないことには始まりません。というか、わかってもらえません。
「勝算はあるの?」「インバウンド狙い?」と多方面から聞かれますが、このプロジェクトは昨今のホテル建設ラッシュとは無関係。「京都から近い滋賀県大津市」と「京都市」ではまったく異なります。なにしろ京都で検索しても大津は出てきません。インターネット上にも大津の情報は乏しく、もちろんガイドブックもありません。
「なのになぜ?」ということになるのですが、私たちがもっとも大切にしているのは、新しい仕組みを「作る」こと、そして「伝える」こと。人口減少とドーナツ化問題を抱える全ての地方都市に応用できるモデルケースを作れたら。大津の魅力を多くの人に知っていただいて、結果的に商店街が活性化したら。それは最高のクリエイティブワークであり、ソーシャルデザインだと思うのです。
もちろん「7棟13室では経済的インパクトは小さい」というご指摘もあります。でも私たちはこう考えています。
かつて大津は東海道五十三次で最大の宿場町でした。人々が交流することで、多くの商売が生まれました。しかし今では旅人が旧東海道を歩き、商店で買い物することは極めて稀。活気を取り戻すには新たな交流を作ることが重要です。 「大津の隠れた観光資源をちょっとだけプロデュースして、編集する」。 その結果、再び大津の街に交流が生まれれば、商店街の新しい未来が見えてくると思うのです。
さらに。泊まることで街が蘇る「ステイファンディング」という日本初の試み(考え方)も導入しました。
「ステイファンディング」ではお泊まりいただいた一人あたり150円を商店街に寄付します。でも150円だけが「ステイファンディング」ではありません。街の飲食店で食べ、買い物することも「ステイファンディング」。その際に一瞬でも大津の、そして全国で同じ悩みを抱える地方都市の将来を考えていただきたいのです。
現状ではまだ商店街は昔のまま、というよりシャッター化はますます進行しています。とはいえ、一部のお店には少しずつ活気が出てきています。このプロジェクトの成否は宿泊するみなさんあってのこと。 「京都に用事があるのですが、あえて大津に泊まってみました」。 「京都にはなくなってしまった、本当の暮らしが息づいている気がしました」 「三井寺や石山寺の素晴らしさに驚きました」 お泊まりいただいたお客様からは、こんな声をたくさん頂戴しています。
大津の隠れた魅力を体感していただき、そして、感じたことをぜひ発信してください。「宿場町 HOTEL 講 大津百町」は大津を発信するメディアですが、それ以上に泊まっていただいた皆様が強力なメディアなのです。
新たな施設や名物・名産品を作るのではなく、昔から息づく文化や風土、人々の営みを観光資源化して地域を活性化するモデルを作ること。しかも皆さんとともに、新たな人間力で未来を切り拓くこと。そんな将来への投資が「ステイファンディング」であり、「宿場町 HOTEL 講 大津百町」の目指すものなのです。
株式会社自遊人 代表取締役 岩佐十良